集大成
とんでもない映画を見てしまった
見聞きしたもの全てに意味のある作品でした
仕事帰りに一度レイトショーで見た後、居ても立っても居られなくなり
その場でミッドナイト上映のチケットを取りました
書籍「君たちはどう生きるか」ならびに映画「君たちはどう生きるか」を見た上の感想となります
ゴリゴリにネタバレです
まだ見てない人は早く見てください
とはいえ、自分がいくら好きでも人に勧めたくなる映画ではないんだよな
覚えてる限り書きたいので箇条書き(青文字で追加の感想)
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全般
1回目の感想
- 1人の人間の集大成、否、幕引き
- これが…冒険活劇???ほんとに???
- 他人から理解されづらいタイプの地獄の切り取り方が丁寧だなあ
- 前振りの長さを圧倒的なアニメ力でねじ伏せてるな
- ものすごい勢いでジブリを突きつけられてる
- 米津はすべてをまとめるなあ
- 1人の人生の幕引きとして、とんでもないものを見てしまった
- 命と体の残り時間というものを意識していたのか
2回目所感
- いや待て この作品に前振りなんてない 全てに意味がある
- 神道仏教エジプト神話ギリシア神話にダンテが見聞きしたキリスト教、古今東西の信仰が入り乱れているな 話自体は六道輪廻かダンテの世界観
- 高畑勲に異を唱え、過去の自分をアップデートする作品だ
- 人間の創造性は命の火が燃え続ける限り続く
- 貧富の差表現がえげつない。学校に通う子供たちは総じて栄養が足りなそうだった中、牧家の裕福さが際立つ
- 水底に沈んでいくのは無意識への探訪?
- 年老いた使用人たちの中に1人だけ際立って品がよくシャンとした人がいたのが印象的
- 眞人の父親が、妻と死に別れて1年あまりで後妻を迎えた上に子まで成すことに違和感を覚える感想が散見されるが、それは視聴者が現代人ゆえの感傷であり時代背景を考えればそれなりによくある話
- 家を継ぐという観点が今以上に強かった当時、夫が戦死した未亡人が元夫の兄弟と再婚するのはごく一般的
- (ご維新以前から続く旧家に女だけという状況、ばあやたちへの態度などから察するに)眞人の父親は恐らく元々婿養子、家を継ぐという観点から妻の没後すぐにその妹が後添えに充てがわれたと考えるのが自然
- そう考えると、金なものを言わせ尊大に思える父親の態度は「有力者の家長」としての面子を保つための行動と納得
- 適齢期ながら高齢の使用人ばかりの御屋敷にひとりで暮らす天涯孤独のナツコの状況もまた家が没落しつつあることが伺えて、早期に「家長」を迎える必然性がある
- その背景の中で、ナツコに対して「父さんの好きな人」と評した眞人からは幼さと現代的な倫理が感じ取れる
- もっと自分に学があればより多くのことを感じ取れるんだろうなあ
- 学、欲しい〜〜〜!!!
- 知恵、欲しい〜〜〜!!!
- 教養、欲しい〜〜〜!!!!!
- こう思ってる時点で吉井源三郎の思う壺かもしれない(そんなことはない)
なぜネタバレがなかったのか
- 正直、1度目に見た時に継母や父親に対して悪い先入観を持って見てしまった 他にもそういう人いる気がする
- 実態は両親も家の者もとても愛情深い
- 「悪」と断罪できるような人間がいない。同級生の少年たちの行動ですら「無理もない」と思わせられる
- 自分たちは毎日毎日野良仕事に精を出してる中、背広着た父ちゃんに連れられた都会の子が来たらやっかみも生まれるわな それはそう
- 父と母の愛に気づいた時に眞人が感じたであろう罪悪感の片鱗を、見る者にも味わせるための演出として「一切の前情報なし」というのは極めて効果的だったなあ
- また今以上に情報統制が敷かれている上に、情報を手に入れる手段も限られていた時代の閉塞感と、眞人の孤独感を追体験する意味でもネタバレなしというのは効果的だった
書籍「君たちはどう生きるか」との関係性
- 話の筋として関係性はほぼ0だが作中の重要な場面で本が登場する
- 改めて読むと、コペルくんという14歳の少年を中心に描かれる戦中に書かれたとは思えない先見性と希望に満ちた本
- 眞人とコペルくんにはほぼ同年代(コペルくんのほうが少々年上)の上相当に裕福な家に生まれたが片親を亡くしている、という境遇の共通項もあって引き込まれるのがわかる。
- コペルくんの亡父からのメッセージは、そのまま亡き母からのメッセージとして染み込んだんだろうなあ
- 先の見えない戦争、生まれによるどうにもならない孤独、生き方がわからなくなった主人公にとってさぞかし希望になったであろう
- 「恵まれた自分の境遇に驕らず、それでいて同じ境遇の奴らで切磋琢磨し学を成せ」という(見様によってはイヤな)エリート主義を解く本書籍はその後も眞人の行動指針となったんだろうなあ。現に彼は(少なくとも)2年以上は住んだ疎開先に全く染まる素振りを見せず東京へ帰っていった
- 汗水垂らして働き国のために死んでいく輩を横目に、恵まれた生活で個人単位の苦しみに耽る眞人自体書籍「君たちはどう生きるか」の「イヤなエリート」の部分が炙り出されてて苦味が効いてて気持ちいい
- 挿絵から判断するに、眞人が読んで落涙してたのはコペルくんが自分の過ちによりわだかまりを抱えていた親友たちと和解する決定的なシーン
- コペルくんを通して語られた友情と懺悔の尊さが心を閉ざした眞人に染み入ったことで、継母ナツコを探しに行く原動力となり大叔父様に友情を説くための心の種となったんだな(2回見て漸くわかった)
- ところで、母親の直接の死因は焼死だけど、わざわざ「大きくなった息子」宛に当時出たばかり(書籍発行は日中戦争の幕開け頃)の本を病床から贈るということは、いずれにせよ長くなかったんだろうなあ
- まだ子供である息子に「母さんは死んだ」と突きつけられたと考えると火に包まれるなら本望、という旨の最後の言葉も意味合いが変わってくる
他作品との関係性
- 人によって強く感じるジブリが違いそうだな
- 人によっては千と千尋、人によってはもののけ姫、人によっては風立ちぬ、人によってはハウル、人によってはポニョを強く感じそう
- ナウシカ紅の豚はちゃんと見たことがないのでわからん、魔女の宅急便は薄そう(個人の感想)
- 母さんの眼差しから始まる物語が父さんがくれた熱い想いで突き動かされる、ラピュタだなあ(?)
- 父親が息子と妻を探しに行く時に、ナイフランプ鞄に詰め込んでたのもよかった
- 父なる力と母なる知性
- 構成としては、となりのトトロと近しいものを感じた
- どちらもあらすじを簡潔に説明するのが難しいけれど前半で目いっぱい布石を敷いておいて後半で一気に回収していく構成
- トトロは「不自由もあるけど楽しい生活、病気の母、幼い妹、子供にしか見えない不思議な生物」と設定を前半で見せてからの急転直下
- 君たちはどう生きるかは「行き詰まった少年が母の言葉で希望を見出すまで」の前半と、ファンタジー成分が途端に濃くなる後半戦
- 母が帰ってきて子供に戻れたサツキと、新しい母と出会うことで前に進んだ眞人は対照的
- サツキと眞人も境遇に共通項が多い。
- 歳の頃も近い(男女が同じ教室にいることから、眞人は国民学校の生徒であることが伺える。原作のように旧制中学の生徒ではない)
- 共に共同体の中の新参者、明らかに異質な存在である
- サツキも眞人も共通してホワイトカラーの家の子、子供も働くのが当たり前の社会で家業に勤しむ必要のない身分(勤労奉仕と野良仕事の描写があった眞人の学校は言うまでもないが、サツキの通う学校にも田植え休みが存在することから、子供も重要な労働力と見做されていることがわかる)
- サツキはすぐに共同体に受け入れられる一方、眞人は排斥される
- その理由の中で大きそうな要因はフラストレーションの溜まる時代背景、あとはサツキには「母親の代わりに家事全般の実施と幼い妹の面倒を見る必要があり、自分達と同じように苦労している」という認識が共同体の中で共有されているということだろうなあ
- 火垂るの墓との強い対比を感じる
- 戦中の倫理に1人だけ都会的で繊細、現代的な少年が放り込まれるという構図は同じ
- 袋小路に追い詰められる清太、それでも人間にとっての道を切り開く眞人
- すべての選択肢を致命的にミスって破滅に向かったのが火垂るの墓なら、すべての選択肢を奇跡的に正しく選んで紙一重で大団円に漕ぎ着けたのがこの映画
- 高畑勲が鳴らした警鐘に30年越しで「そんなに捨てたもんじゃない、学べ、動け、生きろ」と唱えてる
- 何が2人を分けたのか?清太と眞人の運命を分けたのは幻想世界の有無ではない気がする
- 眞人の魂と生きる力は「君たちはどう生きるか」を読んだ時点で既に救われている
- 並大抵の幸せだけが幸せだと思うな、が高畑勲なら並大抵の不幸だけが不幸ではない、が宮崎駿
なぜ鳥なのか
- 序盤で登場人物が「わたしは鳥目だから」というシーンがある、鳥らしさ=目にあるのでは?
- 鳥目=暗いところが見えない
- 以降登場する知性を持つ鳥たち=暗い未来に対して先が見通せずもがいたり絶望したりする存在
- 世界を自由に行き来するアオサギは輪廻を超えた不死鳥(エジプト神話だなあ)
- アオサギと眞人の間に絆が芽生えるにつれ、アオサギは鳥の姿に戻ろうとするのをやめて人に近い姿で行動するようになる
- 眞人の存在が先を見通す力を授けた?
- インコは人のように言葉を操り文明を築き上げたが、人間が成し遂げられるであろう未来に希望を見出すことができなかった
- ホンモノのインコは横に目がついてるからきちんと視野が広いのに、あのインコたちは目が正面についてて視野狭窄に陥ってる
- インコの癖に飛ぶことまで忘れてる、一方で人間は空を飛ぶことを学んだ
- 増えすぎた世の中で戦い続けてるインコたちはまさに修羅道のそれ
- 何より、大叔父様があらせられる場所は色とりどりの花が咲いて、滋養に満ちてそうな果物がなる、極楽鳥が飛ぶような場所だけど皆老いるしカビも生えるし虫も湧く、ああ五衰
- 楽園のような世界の裂け目には大いなる宇宙が広がる、輪廻から外れた先に宇宙を見出す仏教を感じちゃうね
何はともあれめちゃくちゃ良かったのでまた見に行きたいです