アラザン
わたしには無二の親友と呼べる友人がいる
もう人生の半分以上の付き合いがある友人だ
学生時代には、お互いの家にもよく行き来し
とりわけ毎年2月半ばにもなると
わたしの家に来てもらい
お菓子作りをするのが慣いとなっていた
毎年同じレシピで作っては
友人知人手当たり次第にばら撒くから
なにも見なくても作れるけど
2人揃わないと作れない
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ある年のこと
まだTwitterもなかったような遠い昔
当時、地元の駅ビルの屋上にある
ゲームコーナーに入り浸っていた私は
ゲーセン仲間たちにもあげたいと
名前も知らない、けれど毎日のように会う彼ら彼女らについて
製菓材料の買い出しの道すがら親友に洗いざらい話した
カラースプレーにアイシングシュガー
その他お菓子を彩るあれやこれをひとしきり買い込んだところで
「明日みんな来るか聞かなくていいの?待つよ」
と親友が言う
その言葉に甘えついでにゲーセンに寄り
親友は「邪魔するのも悪いから」とプリクラとUFOキャッチャーの影からこっそり様子を伺っていた
軽く周りと会話して帰ろうとしたところで
常連のひとりが隠れていた親友と目を合わせて
「誰?なんか用?」と訝しげに聞いたとき
そういえば親友はわたしのハンドルネームも知らないし
インターネットをやらないから本名しか持っていない
思考停止するわたしをよそに
親友は手に持った製菓材料の袋を一瞥して
「わたしはアラザン。この子の友達です、よろしく。」
本当に一瞬で答えていた
やっぱり名探偵コナンのオタクはやることが違う
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その後彼女がその名前を使うことはないし
「アラザン」とあの頃の常連たちが再び会話することもないけれど
あの銀色の飾り付けに出会うたびに思い出すんだなあ