年代物
幼少のみぎりから憧れていたものが
いくつかあります
ひとつはうたのおねえさん
自分の歌が下手なことに気付くまでは
将来の夢でした
もうひとつはマジック
何もないところからハトをいっぱい出して
ハトに囲まれて暮らすことに憧れました
(トリビアの泉でハトが仕込まれる物と知って
ちょっとだけ悲しかったです)
そしてもうひとつが
年代物の梅干しです
元から梅干が好きなんですが
何かのテレビ番組で
「漬けてから10年、20年の経った
年代物の梅干は
塩気の刺々しさがなくなって
旨味がギュッと凝縮され
塩だけで漬けた梅干でも
黒糖のようなコクのある甘味がする
50年モノとなれば尚のことだ」
だなんて聞いてから
アホなもんだから
「10年後ならまだ高校生、
50年後でもたぶんまだ余裕で生きてるぞ!」
と気合が入っちゃって
思い立ったら吉日と
なんとか家にある梅干を
50年持たせようと画策したものです
一粒恭しくお皿に乗せて
冷蔵庫に入れたら
家族に翌日食べられていたり
家にあるストックをくすねて
机の隅に隠してみては
大掃除で見つかり処分されたり
そのうち何度も引越しを重ね
梅干をめぐる試行錯誤もすっかり記憶の隅
もう50年後の生に希望を持てない年齢に
なってしまいました
ところがこの前
たまたま家の冷蔵庫で2年と少し眠っていた
小田原・曽我の十郎梅で
白いごはんをいただいたら
塩だけで漬けた梅だというのに
塩っぱい以上に梅の実の甘みがほのかに主張し
おいしいのなんのって
あの頃の憧れが蘇りました
よく考えたら
多少足腰や胃腸が弱っても
極上の梅干一粒くらいなら
十分に楽しめそうなので
その日が来るまで生きる意味として
50年越しの終活として悪くないかもしれません
待ってなさい77歳の私